遺言相続

平成30年 相続法改正について

平成30年 相続法改正について

預貯金債権の仮分割及び一部行使の制度
最大決平成28年12月19日(民集70巻8号2121頁)によって、従前の判例が変更され、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることになりました。
この決定を前提としますと、預貯金債権について、遺産分割までの間は、共同相続人による単独での行使ができないことになり、相続人には、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要がある場合にも被相続人の預金の払戻しができないという不都合が生じるおそれがあります。
このような事態が生じることが考慮され、家事事件手続法の保全処分の要件が緩和されるとともに、他方で、家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める制度も新設されました。
1. 遺産分割前の預貯金債権の仮分割の仮処分
(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
新家事事件手続法200条
家庭裁判所(第105条第2項の場合にあっては、高等裁判所。次項及び第3項において同じ。)は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を翻案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
3 (新設) 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第466条の5第1項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。
4 第125条第1項から第6項まで規定及び民法第27条から第29条まで(同法第27条第2項を除く。)の規定は、第1項の財産の管理者について準用する。この場合において、第125条第3項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。
(1)概要
家庭裁判所が関与する手続です。
預貯金債権の仮分割に限り、改正前の家事事件手続法200条2項の仮分割仮処分の厳格な要件(「急迫の危険を防止」する必要性という厳格な要件が課されています。)を緩和する形で、遺産分割前の預貯金債権の仮分割仮処分の規定が新設されました。
具体的には、①本案である遺産の分割の審判又は調停が係属している場合において、②仮払いの必要があると認められるときは、③他の共同相続人の利益を害しない限り、預貯金債権の仮分割の仮処分が認められます(新家事事件手続法200条3項)。
●預貯金債権の仮分割仮処分が認められる範囲
範囲 備考
原則 遺産総額×申立人の法定相続分(①) 特別受益の主張がある場合には、具体的相続分の範囲内
事後的な精算も含めると相続人間の公平が担保されうる場合には、この範囲を超えた仮処分を認めることもありうる(②)
例外 預貯金債権額×申立人の法定相続分 ①の額の範囲内での仮分割を認めることも相当でなく、当該預貯金債権の額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内に限定するのが相当な場合
預貯金債権の仮分割の仮処分の具体的審査の内容については、個別具体的な事件を担当する裁判官の判断に委ねられますが、以下のような考え方がありうるとされています。
①原則としては、遺産の総額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内(相手方から特別受益の主張がある場合には具体的相続分の範囲内)で仮分割を認める。
②被相続人の債務の弁済をする場合など事後的な精算も含めると相続人間の公平が担保されうる場合には、①の額を超えた仮分割を認めることもありうる。
③①の額の範囲内での仮分割を認めることも相当でなく、当該預貯金債権の額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内に限定するのが相当な場合にはその部分に限定することもありうる。
(2)施行日
施行日:2019年7月1日
(3)留意点
仮分割された預貯金債権と本案である遺産分割との関係は、民事事件における保全と本案訴訟の関係と同様に解することができるものと考えられますので(最判昭和54年4月17日・民集33巻3号366頁参照)、原則として、仮分割により預貯金の払戻しがされても、本案の遺産分割においてはこれを考慮すべきではなく、改めて仮分割された預貯金債権を含めて遺産分割の調停又は審判をすべきことになります。
他方で、預貯金債権の債務者(金融機関)との関係では、仮分割により、特定の相続人が預貯金債権を取得し、金融機関から支払を受けた場合、金融機関との関係では有効な弁済と扱われ、本案である遺産分割において異なる判断がされたとしても、金融機関が行った弁済の有効性が事後的に覆ることはないと解されます。
著者 弁護士 熊野 祐介
編集 弁護士 佐野 つかさ
2. 遺産分割前の預貯金債権の行使(新民法909条の2)
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
新民法909条の2(新設)
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額
(標準的な当面の必要性経費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
(1)概要
上記の仮分割仮処分の要件緩和のみでは、相続開始後の相続人の資金需要に対応するには不十分であることから、家庭裁判所の関与なく預貯金の払戻しを認める方策として、遺産分割前の預貯金債権の行使を認める規定も新設されました。
これにより、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始の時の債権額の3分の1に、当該相続人の法定相続分を乗じた額については、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができるようになりました(新民法909条の2第1文)。
なお、同一の金融機関に対する権利行使は、150万円を限度とする、とされています。
また、相続人が、遺産分割前の預貯金債権の行使をし、預貯金の払戻しを受けた場合には、当該相続人がこれを遺産の一部分割により取得したものとみなされます(同条第2文)。
(2)施行日、経過規定
施行日:2019年7月1日
遺産分割前の預貯金債権の行使に関しては、施行日前に開始した相続であっても、施行日以後に相続の対象である預貯金債権を行使する場合には、改正法が適用されることになります。
(3)問題点、留意点
●相続債務の弁済・遺産分割費用の支払いをした場合の扱い
遺産分割の対象 精算 解決方法
遺産分割前の
預貯金債権の行使
当事者の合意のない限り対象とならない 不可 民事訴訟による求償請求
仮分割仮処分 当然に対象となる 遺産分割調停又は審判
相続人が、遺産分割前の預貯金債権の行使によって、預貯金の払戻しを受けて、相続債務の弁済や遺産分割費用の支払に充てたという場合には、預貯金を一部分割により取得したとみなされますが、相続債務や遺産分割費用が遺産分割の対象とされないことは、相続法改正によっても変更はなく、そのため、遺産分割において当然に相続債務等の精算がされるものではありません。
当事者の合意によってこれらを遺産分割調停の対象とする場合には、相続債務の弁済や遺産管理費用に充てた事実を遺産分割調停に反映することも可能になりますが、当事者全員の合意がない場合には、相続債務等の精算については相続人間の求償の問題となり、遺産分割事件のいわゆる付随事項として民事訴訟で解決しなければならない事項になります。
他方で、相続人が、仮分割仮処分により、預貯金の払戻しを受けて、相続債務の弁済や遺産分割費用の支払に充てたという場合には、上記のとおり、仮分割された預貯金債権も含めて遺産分割の調停又は審判をすることになりますので、遺産分割方法を決めるにあたっては、預貯金の払戻しが相続債務の弁済や遺産分割費用の支払などに充てられたという事情を考慮することも可能であると解されます。
なお、遺産分割前に、相続人が被相続人の死亡を告げずATM等で払戻しをした場合(いわゆる勝手払い)ですが、新民法909条の2による権利行使は相続人の立場で行われるものであり、被相続人の立場(名義)で行われる勝手払いについては、下記3の遺産分割前の遺産に属する財産を処分された場合の遺産の範囲の問題になると解されます。
著者 弁護士 熊野 祐介
編集 弁護士 佐野 つかさ
3. 遺産分割前の遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(新民法906条の2)
(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
新民法906条の2(新設)
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
(1)概要
●遺産分割前の財産の処分(新民法906条の2)
財産の処分者 善意の第三者 効果
1項 共同相続人及びそれ以外の者 共同相続人全員の必要 遺産とみなす
2項 共同相続人の一人又は数人 当該共同相続人からは不要 遺産とみなす
遺産分割前の預貯金債権の行使の規定により、相続人が遺産分割前に払い戻した預貯金債権は、当該共同相続人が遺産の一部の分割により取得したものとみなされることになりました。
これに関連して、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合に、その処分財産を遺産分割の対象としないこととすると、処分相続人(特に特別受益がある相続人)が、遺産分割において、処分しなかった場合と比較して、結果的に利得することがあることがあります。
そこで、公平の理念から、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合についても、遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができることとされました(新民法906条の2)。
その要件は、相続開始時に被相続人の遺産に属する財産が遺産の分割前に処分されたこと及び共同相続人全員の同意があること(同条1項)ですが、共同相続人の一人又は数人が財産を処分した場合には同人の同意を得ることを要しない(同条2項)とされており、これらの要件を満たす場合に、その処分された財産が、遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができることになります。
なお、同意の対象は、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることであって、処分財産が誰によって処分されたかについては同意の対象にはなっていません。
(2)施行日
施行日:2019年7月1日
(3)留意点
本規定が適用できるのは、相続開始後に被相続人の財産が処分された場合であり、相続開始前に財産が処分された場合は含まれません。
また、相続開始後に特定の相続人が財産の処分をしたことが明らかであり、かつ、処分相続人以外の相続人全員が同意する場合に限られます。
そのため、処分相続人と考えられる者が処分の事実を否定しており、証拠上も処分の事実を認定できない場合や、相続人間で、処分の相当性に対する意見の対立などの理由により、処分された財産を遺産分割の対象に含めることについて処分相続人以外の全員が同意しない場合には、本規定の適用がないことに留意が必要です。
著者 弁護士 熊野 祐介
編集 弁護士 佐野 つかさ
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